創作民話 けものと信号機2023年07月01日 09:48

今年の枇杷は巨大でした。
けものと信号機

下君田に住むのけものたちは、大騒ぎです。大塚神社の角の十字路に、新たに信号機が設置されるといううわさが、神社のカヤの樹に住むカケスによってもたらされたからです。
 けものたちには、信号機そのものが分かりません。
 「信号機ってなんだ?」
 訳知り顔のけものが幾人か、何かしら説明しようとしますが、土台知らないものなのでさっぱり要領を得ません。
 そこで、やはり神社の大杉に住むフクロウ爺さんが、おもむろに話しはじめました。
 「ほれ、大塚神社の所は、小神戸からきて町へ降りていく道と、学校の方から降りてきて、栄橋の方へと行く道が交差しておるじゃろ。」
 「うん、うん。」
みんなはうなづきました。
 「人間は、どちらから来たものがその交差点を通って良いのか、灯りの色~これを信号というのじゃが~で分かるようにルールを決めておるんじゃ。横断歩道が一緒にできるはずなので、我々けものは、その灯りの指示に従って、横断歩道を渡ることになる。
 争いが起こらないよう、ルールを決めて、それをお互いが守っていくというのは、我らが見習うべき人間の美徳だな。」
 「うん、うん。」
みんなはうなづきました。
 「そのルールは、“法”といってじゃな、三千年の昔・・・・」
 「じいさん、そこまででいい。それ以上は、長くなっていかん。
 それよりも、その信号とやらのルールとやらを教えてくれ。」
と、松岩寺の柴犬、ポチがさえぎりました。
 「まったく、若い者は向学心というものがないで困るよのう。」
 フクロウのじいさんは、ひとりごちました。 さあ、次の日からフクロウのじいさんと、最近街内から引っ越してきたカラスの葛丸が先生になって、信号の特訓が始まりました。 葛丸は、田舎のほうが空気が新鮮で、喘息気味の自分にとっては、ここの暮らしのほうが「理想的」だといって、いつの間にかいついてしまった街ガラスです。
 街ガラスだけあって、信号なんてものは見慣れすぎて、そこにあってももう目に入らないくらいだと、うそぶいていました。
 だいたい、葛丸はずい分いやしいまねをして、カラス仲間から袋叩きにあって、追い出されたのですが、山のけものたちにはそんなことは知る由もありません。
 あ、ちょっとばかり話が横道にそれましたね。信号機の特訓の話に戻しましょう。
 狐の勇作一家が、フクロウ爺さんの命令で信号機に変身させられていました。勇作がもともと松本商店があった角に立ち、奥さんの花子が(ちょっと古風な名前ですね)鈴木さんちの角に、大塚神社の方には長男の文治(これも古風な名前ですねえ)、今の松本商店側には次男の次郎(またまたこれも)古風な・・・、えっ、しつっこいって)が立ちました。
 口にそれぞれ、近所の鈴木さんちの畑からもぎってきた緑、赤、黄いろのパプリカをくわえていました。
「おい、モウシンよ、準備はよいか。」
じいさんがイノシシに声を掛けました。
 イノシシのモウシンは、
 「いつでもオッケーだ。」
と、前足で地面をひっかきました。
 「おいおいモウシンよ、そんなに猛進せんでもよいのだ。」
 最初に山鳩のソウさん一家が、横断歩道のへりに立ちました。そこへイノシシのモウシンが、学校の方から走ってきて、横断歩道の手前で止まりました。勇作と花子のくわえているパプリカが赤だからですそして、歩行者横断側に向かっては、緑のパプリカを手でかざしています。これは、獣が道路を横断してもよいという合図です。
 「はい、今だ。渡って!」
 葛丸の大きな声に驚いて、山鳩のソウさんは思い切り飛び上がりました。そして、神社の杉の木立へと消えていったのです。
 みんなは、あんぐりと口を開けて、それを見送っていました。
 葛丸がしゃがれ声になってわめきます。
 「大体にして、鳥に信号なんか必要ないんだ。空を飛んでいるのに、なんで自動車を気にしなければならないんだ。」
 「もっともだ、もっともだ。」
みんなうなづきました。
 そのとき、人ごみの後ろから声が上がりました。
 「そんなことないわよ。鳥だって必要な者たちがいるわ。」
それは、ヤマドリでした。彼らは普段、一家総出でぞろぞろと地上を歩き回るのです。キジたちもそうです。
 「わかった、わかった。それじゃ、そんな皆さんも参加してください。」
 さあ、もう一度仕切り直しです。