百舌鳥(モズ)2023年10月05日 16:39

獲物探しに、なわばりの見回りにといそがしい百舌の姿
 今回は、秋に庭先でよく見かける百舌のお話しです。かわいらしい小鳥ですが、けっこう気性が荒く、くちばしもまるでわしのような形です。庭木の小枝にカエルやコオロギ、カマキリ、カナヘビなどを串刺しにします。冬の保存食なのですが、彼らにとってはこれが重要なのです。たくさん用意しておいて、冬のあいだ豊富に栄養を蓄えることができるオスが、メスにもてるのですから。
 ほかのオスとなわばり争いをして、広いエリアを支配できたということで、優勢になるのでしょう。そんな百舌の、少し間の抜けたお話しです。


百舌鳥(モズ)


 モズという鳥は決して美しい鳥ではありません。頭と胸が茶色、背は灰色。目はまるで盗賊のように、黒い帯線の中に隠れています。鳴き声にしても甲高く、「キチキチキチ、キューイキューイ」とけたたましく、どちらかというと耳障りなくらいです。
 20センチほどの体で、あまり大きくはありませんが、けっこう獰猛です。軒先の籠に飼っている小鳥の首だけを、もぎっていってしまうこともよくあります。
 冬、庭先などで、木の小枝に虫やカエルが串刺しにされているのを見たことが、あるでしょう。「モズのはやにえ」といって、春までのかれらの保存食なのです。
 そのように暴れん坊のモズと、仲良くしようと思う鳥など、おりませんでした。

 ある日、モズが庭木の高い梢にとまって、あたりに獲物はいないかと見まわしていますと、どこからともなく、美しい声が聞こえてきました。誰が歌っているのだろうと、耳を澄ませていると、尾をせわし気に振りながら、キビタキが姿を現しました。
 キビタキは、モズよりもやや小ぶりな、とても美しい鳥です。頭から背にかけてはつやのある黒、腰の部分とお腹が鮮やかな黄色に染まっています。姿も美しいのですが、その鳴き声も「チュルリ、ピヤヒョイ」ととても美しく響きます。
 モズは思いました。「おれも、あんなふうに美しく歌いたいものだ。そうすれば、ほかの鳥どももおれを仲間だと思うに違いない。」
 モズは、キビタキのあとを追って、一生懸命その鳴き声をまねてみました。毎日まいにち、キビタキが現れるのを待ち、追いかけては鳴き声のまねをしました。最初のうちは、「ギュルリ、ビヤビヤ」と、キビタキに似てもにつかない鳴き声でしたが、十日もするとだんだんキビタキに似てきました。十一日目にはすっかり、キビタキの鳴き声になっていました。
 モズは、毎朝高い木の梢にとまっては「チュルリ、ピヤヒョイ」と鳴いて、のどの自慢をしました。

 いつものようにのど自慢をしていると、どこからか美しい鳥の声が聞こえてきました。「ツイピィー、ツイピィー」シジュウカラたちです。
 十羽ほどのシジュウカラが、楽しそうにさえずりあいながら朝の食事を楽しんでいました。モズは、のど自慢を忘れて、その歌声に聞きほれていました。
 「ツイッピー、ツイッピー、ツイッピー、ツイツイツイ」
 もうモズは、われを忘れてシジュウカラたちのあとを追いました。「ツイ、ツイ」と鳴くのは簡単にまねできました。でも、「ツイッピー、ツイッピー」はなかなかむずかしく、結局十日もシジュウカラのあとを追い続けたのです。そのおかげで、十一日目には、シジュウカラたちよりも上手に「ツイッピー、ツイッピー、ツイッツツピー、ツイツイツイ」と鳴くことができるようになりました。

 モズは、それからもほかの鳥たちの歌を追い求めたのですが、以前よりも、誰にも相手にされなくなってしまいました。それはそうでしょう、暴れん坊のモズに自分の歌をまねされるなんて誰でもぞっとするほどいやなものです。
 カシラダカが仲間の声をきいて、近づいて行ったところ、盗賊顔のモズが仲間の声をまねしていたし、ウグイスやヨシキリなど多くの鳥たちが、同じようにいやな思いを何度もしたのでした。
それでも、モズは毎日まいにちいろんな鳥たちの声をまねして、気持ちよくのど自慢をしていました。山奥にすむオオルリやコマドリの歌さえもまねできるようになっていました。もう、モズにまねできない鳥の声はありません。
ある日モズは、かわいらしいメスの姿を見かけました。とっさに恋の歌をうたおうとしました。が、あれっ、自分の歌が出てきません。モズは自分の本当の歌をいつのまにか忘れてしまっていたのです。そこでモズは、ほかの鳥たちに「おれの本当の歌って、どんなだった?」ときいて回りました。けれども、誰も答えてくれません。それどころか、みんなモズとかかわるのをいやがって、逃げまわるばかりです。それはそうです。さんざん他人のものまねをして、乱暴ばかりしてきたのですから。
それからずうっとです。モズは「ケチケチケチ、ケチケチケチ、キョッキョッキョッ」と甲高い声で鳴いては、ほかの小鳥たちを追い回しています。

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