街は大さわぎ ― 2023年02月08日 22:25
街は大さわぎ
ゆうちゃんのママは、ベビーカーをおしてお買いもの。
「こんやのおかずは何にしようかな。」
そこでバッタリ近所のおくさん。二人はそのままたちばなし。五分、十分、十五分。おしゃべりまだまだ止まらない。
ゆうちゃんとってもつまらない。そこへきたのが、ノラ犬ノラボ。
「おい、ゆうちゃん。たいくつそうだね。」
「バブバブ、ママったらぼくのこと忘れてるみたい。」
「おいらの背中にのりなよ。散歩でもしようぜ。」
二人(おっと、ひとりといっぴき)は、のんびりぶらりとお散歩に。
しばらくたって、ゆうちゃんママ、
「あらたいへん。ゆうちゃんがいないわ。」
ベビーカーをひっくり返しても、見つからない。そこで、近所のおくさんに、
「おくさんがいけないのよ。」
「まあ、しつれいね。」
近所のおくさん、団地にむかってさけんだら、団地中の窓があいたり、とじたり。窓がいっせいにさけんだ。
「まあ、しつれいね。」
ママは、今度はベビーカーにやつあたり。
「あんたがわるいのよ。」
「やあ、しっけいな。」
ベビーカーは、公園にいってさけんだ。ベンチにブランコ、三輪車、口をそろえてさけんだ。
「やあ、しっけいな。」
次にママ、通りかかったネコ君けとばして、
「あんたがわるいのよ。」
びっくりネコ君、屋根にとびあがり、
「なんて、ぶれいな。」
すると、街じゅうのネコもネズミもニワトリも
「なんて、ぶれいな。」
おしまいに、どこの家もえんとつも、並木も道も電柱も、みいんなめいめいいっせいに、
「あんたがわるいんだ。」
「いやいや、きみがいけないよ。」
「そうじゃないさ。おまえのせいだ。」
街がみんなで大さわぎ。
そのころゆうちゃん、ベッドの中。散歩につかれておうちにかえり、すやすやとっくに夢のなか。
おやすみなさい。
ゆうちゃんのママは、ベビーカーをおしてお買いもの。
「こんやのおかずは何にしようかな。」
そこでバッタリ近所のおくさん。二人はそのままたちばなし。五分、十分、十五分。おしゃべりまだまだ止まらない。
ゆうちゃんとってもつまらない。そこへきたのが、ノラ犬ノラボ。
「おい、ゆうちゃん。たいくつそうだね。」
「バブバブ、ママったらぼくのこと忘れてるみたい。」
「おいらの背中にのりなよ。散歩でもしようぜ。」
二人(おっと、ひとりといっぴき)は、のんびりぶらりとお散歩に。
しばらくたって、ゆうちゃんママ、
「あらたいへん。ゆうちゃんがいないわ。」
ベビーカーをひっくり返しても、見つからない。そこで、近所のおくさんに、
「おくさんがいけないのよ。」
「まあ、しつれいね。」
近所のおくさん、団地にむかってさけんだら、団地中の窓があいたり、とじたり。窓がいっせいにさけんだ。
「まあ、しつれいね。」
ママは、今度はベビーカーにやつあたり。
「あんたがわるいのよ。」
「やあ、しっけいな。」
ベビーカーは、公園にいってさけんだ。ベンチにブランコ、三輪車、口をそろえてさけんだ。
「やあ、しっけいな。」
次にママ、通りかかったネコ君けとばして、
「あんたがわるいのよ。」
びっくりネコ君、屋根にとびあがり、
「なんて、ぶれいな。」
すると、街じゅうのネコもネズミもニワトリも
「なんて、ぶれいな。」
おしまいに、どこの家もえんとつも、並木も道も電柱も、みいんなめいめいいっせいに、
「あんたがわるいんだ。」
「いやいや、きみがいけないよ。」
「そうじゃないさ。おまえのせいだ。」
街がみんなで大さわぎ。
そのころゆうちゃん、ベッドの中。散歩につかれておうちにかえり、すやすやとっくに夢のなか。
おやすみなさい。
創作民話 権じい桜 ― 2022年12月27日 16:25
權じい桜
今日は權じいの話をしよう。權じいは、口うるさいじい様だった。まごの隆太やおきよが茶碗に飯粒を残して「ごちそうさん」と立とうものなら、もう小言のあらしだ。
「コメはお天道さんと、おめえたちのおとうが一年かけて一生懸命作った、命のもとだ。それをそまつにしたら、罰があたるぞ。」
「おとうとおっかあが、雨の日も風の日も、田んぼの泥ん中はい回って育てた米だ。手を合わせて、拝んで食べんといかんぞ。」
玄関の外で、茂一がハナを垂らしながら待っているのに、隆太は気が気でならない。今日は河原でカジカとりをする約束なのだ。
おっかあの声がした。「おきよの面倒を見るんだよ。危ないところにはいくんじゃないよ。」
隆太は、九つになるおきよを連れて歩くのは、お荷物になっていやだったが、仕方なしに何も言わずに、おきよの手を引いて外へ出た。
權じいには奇妙なクセがある。コメ粒を見つけると、腰にぶら下げた袋に拾って入れるのだ。ほかの家の脱穀を手伝いに行ったときなど、散らかして打ち捨てられたコメ粒を、「これ、もらってもいいか?」と必ず声をかけて拾い集める。なかには、そんな權じいをからかうように、稲粒やコメ粒をわざとばらまいて拾わせたりするもんもいた。
農繁期、地主の家に行ったときなど、背戸で羽釜を洗う女房達にたのんで、釜の内側にへばりついたコメ粒をこそぎ落としてもらってくる。
「そら、まんま粒が流れてしまうぞ。」と、女房達がはやしたてた。残ったコメ粒をわざと流したりするのだ。權じいは、あわてて水の中から、一生懸命拾い集めた。それを見て、女房達は大笑いしたものだった。そんなにして集めたコメ粒を持ちかえっては、干してカラカラにした。
その干飯(ほしいい)やコメ粒、稲粒は、それぞれの壺に分けて、床下にしまっておいた。
そんなしみったれた權じいを、隆太は面と向かって小ばかにした。
「一粒ばっかりのコメが何になるんだ。ただのゴミじゃないか。ケチばっかりをしていると、ろくな死に方をしないぞ、くそじじい。」
「なにを馬鹿ぬかす。一粒のコメをそまつにするもんは、一粒のコメになくというもんだ。」
「コメはな世根(よね)と言ってな、世の中の根っこなんじゃ。」
ある年、梅雨が長引いた。とうにセミたちの大合唱が聞こえていてもおかしくない時期になってさえ、お天道さんがちっとも顔を出さない。寒い夏が続いた。
これにはだれもが参った。コメが育たないのだ。案の定、その年は収穫がまるでなかった。どこの家も、少しばかり残っていた、古いコメで食いつながなければならなかった。種もみはどうしたらよいのか、頭を抱えた。
そして、まずいことにその翌年もおなじだった。お天道さんはもう空にいなくなってしまったのではないかと、みんなオロオロした。
よその村では食べるものがなく、飢えて死ぬものが出たとのうわさが立ち始めた。
隆太のおとうとおっかあが、額をこすり合わせるようにして、ひそひそ話をしていた。
「もう食うもんがねえ。おきよを奉公に出すしかあんめえ。」
奉公とは、ていのよい身売りのことだった。
おっかあが、おきよを抱きしめてないていると、權じいが小さな声で言った。
「床下に、ほしいいがつまった甕が十ある。これで食いつなげばいい。」
「それっぽっちのほしいいなんどで、家族五人食っていけるわけがないわい。」
おとうがおこった声で答えた。
權じいは言葉を継いだ。
「ほかにコメの甕が十、もみの甕が十ある。節約すればなんとか春まで家族五人生きていけるだろう。もみもあるから、春には種をまいて、稲を作ることもできよう。ほんとうにわずかしかないので、腹いっぱい食べることはできまい。村のもんに分けてあげられるほどないのが、心苦しい。」
翌日、權じいが姿を消した。おきよが言うには、「コメがあんまりに少ないので、村で飢えて死にそうなもんがあれば、おれの分を分けてやってくれ。」と、おきよの頭をなでて、山の方へ出かけて行ったということだった。
隆太はないた。權じいを探しに家を飛び出そうとしたが、おとうに腕をつかまれ、引き戻された。おとうも顔がぐしゃぐしゃに濡れていた。
やがて春が来た。隆太の家族四人は、水のようなかゆで命をつないだ。村に死にそうなモンがでたので、大切なコメを分けてあげた。そのぶん、かゆはどんどん薄くなった。でも、村からは一人も死人を出さず、みんなで春を迎えることができた。
權じいが山に入っていった、その登り口に大きなヤマザクラの木があった。ヤマザクラはいつしか、權じい桜と呼ばれるようになっていた。今年こそは良い年になりますようにと、村人みんながその下で花見をするそうだ。今では、松岩寺というお寺さんの一部になっているが、今でもその權じい桜は毎年美しい花を咲かせている。
今日は權じいの話をしよう。權じいは、口うるさいじい様だった。まごの隆太やおきよが茶碗に飯粒を残して「ごちそうさん」と立とうものなら、もう小言のあらしだ。
「コメはお天道さんと、おめえたちのおとうが一年かけて一生懸命作った、命のもとだ。それをそまつにしたら、罰があたるぞ。」
「おとうとおっかあが、雨の日も風の日も、田んぼの泥ん中はい回って育てた米だ。手を合わせて、拝んで食べんといかんぞ。」
玄関の外で、茂一がハナを垂らしながら待っているのに、隆太は気が気でならない。今日は河原でカジカとりをする約束なのだ。
おっかあの声がした。「おきよの面倒を見るんだよ。危ないところにはいくんじゃないよ。」
隆太は、九つになるおきよを連れて歩くのは、お荷物になっていやだったが、仕方なしに何も言わずに、おきよの手を引いて外へ出た。
權じいには奇妙なクセがある。コメ粒を見つけると、腰にぶら下げた袋に拾って入れるのだ。ほかの家の脱穀を手伝いに行ったときなど、散らかして打ち捨てられたコメ粒を、「これ、もらってもいいか?」と必ず声をかけて拾い集める。なかには、そんな權じいをからかうように、稲粒やコメ粒をわざとばらまいて拾わせたりするもんもいた。
農繁期、地主の家に行ったときなど、背戸で羽釜を洗う女房達にたのんで、釜の内側にへばりついたコメ粒をこそぎ落としてもらってくる。
「そら、まんま粒が流れてしまうぞ。」と、女房達がはやしたてた。残ったコメ粒をわざと流したりするのだ。權じいは、あわてて水の中から、一生懸命拾い集めた。それを見て、女房達は大笑いしたものだった。そんなにして集めたコメ粒を持ちかえっては、干してカラカラにした。
その干飯(ほしいい)やコメ粒、稲粒は、それぞれの壺に分けて、床下にしまっておいた。
そんなしみったれた權じいを、隆太は面と向かって小ばかにした。
「一粒ばっかりのコメが何になるんだ。ただのゴミじゃないか。ケチばっかりをしていると、ろくな死に方をしないぞ、くそじじい。」
「なにを馬鹿ぬかす。一粒のコメをそまつにするもんは、一粒のコメになくというもんだ。」
「コメはな世根(よね)と言ってな、世の中の根っこなんじゃ。」
ある年、梅雨が長引いた。とうにセミたちの大合唱が聞こえていてもおかしくない時期になってさえ、お天道さんがちっとも顔を出さない。寒い夏が続いた。
これにはだれもが参った。コメが育たないのだ。案の定、その年は収穫がまるでなかった。どこの家も、少しばかり残っていた、古いコメで食いつながなければならなかった。種もみはどうしたらよいのか、頭を抱えた。
そして、まずいことにその翌年もおなじだった。お天道さんはもう空にいなくなってしまったのではないかと、みんなオロオロした。
よその村では食べるものがなく、飢えて死ぬものが出たとのうわさが立ち始めた。
隆太のおとうとおっかあが、額をこすり合わせるようにして、ひそひそ話をしていた。
「もう食うもんがねえ。おきよを奉公に出すしかあんめえ。」
奉公とは、ていのよい身売りのことだった。
おっかあが、おきよを抱きしめてないていると、權じいが小さな声で言った。
「床下に、ほしいいがつまった甕が十ある。これで食いつなげばいい。」
「それっぽっちのほしいいなんどで、家族五人食っていけるわけがないわい。」
おとうがおこった声で答えた。
權じいは言葉を継いだ。
「ほかにコメの甕が十、もみの甕が十ある。節約すればなんとか春まで家族五人生きていけるだろう。もみもあるから、春には種をまいて、稲を作ることもできよう。ほんとうにわずかしかないので、腹いっぱい食べることはできまい。村のもんに分けてあげられるほどないのが、心苦しい。」
翌日、權じいが姿を消した。おきよが言うには、「コメがあんまりに少ないので、村で飢えて死にそうなもんがあれば、おれの分を分けてやってくれ。」と、おきよの頭をなでて、山の方へ出かけて行ったということだった。
隆太はないた。權じいを探しに家を飛び出そうとしたが、おとうに腕をつかまれ、引き戻された。おとうも顔がぐしゃぐしゃに濡れていた。
やがて春が来た。隆太の家族四人は、水のようなかゆで命をつないだ。村に死にそうなモンがでたので、大切なコメを分けてあげた。そのぶん、かゆはどんどん薄くなった。でも、村からは一人も死人を出さず、みんなで春を迎えることができた。
權じいが山に入っていった、その登り口に大きなヤマザクラの木があった。ヤマザクラはいつしか、權じい桜と呼ばれるようになっていた。今年こそは良い年になりますようにと、村人みんながその下で花見をするそうだ。今では、松岩寺というお寺さんの一部になっているが、今でもその權じい桜は毎年美しい花を咲かせている。
創作民話 へそ二つ ― 2022年10月29日 17:15
じいたんのお腹には、おへそが二つある。下腹の真ん中に大きくりっぱなでべそが一つ。その右横にもう一つ普通の大きさのでべそ。
ん~、普通の大きさがどのくらいと聞かれても、答えようがないんだけど、おらのでべそとおんなじくらいの大きさだ。
なして、じいたんはおへそが二つあるかって?本当のことは知らねえんだけども、じいたんが話してくれた話を聞かせてあげっぺ。
じいたんがちっけえころ、そう田植えの時だったそうな。じいたんの父ちゃん、母ちゃんが田んぼの泥の中に入って、一生懸命早苗を植えていた。じいたんは、畦の背負いかごの中に入れられて一人遊びをしていた。そのうちに一人遊びもあきて、小さな寝息を立てはじめた。
母ちゃんが腰をのばして、手の泥がつかないように腕で額の汗をぬぐった時、にわかに雷が鳴りひびいた。雷んときに、水の中に入っているのは危ない。父ちゃんも母ちゃんもあわてて畦に這いあがった。
そんで、かごの中の赤ちゃんはどうしたかとのぞいてみたところ、あの大きな雷の音にもかかわらず、相変わらずすやすや眠っていた。ところが、着ぐるみがはだけた下に、かわいらしいお腹が見えていたんだけど、あれっ、へそが見えねえ。
母ちゃんはびっくらして、よくよく見てみたんだが、やっぱりへそがねえ。
「こりゃあ、雷さんに盗まれたにちがいねえ。」
父ちゃんは、そういうが早いかかけだした。
「あれえっ、おまえさんどこさいくんだあ?」
母ちゃんの声が聞こえたのか聞こえないのか、父ちゃんはもうどんどん走り去っていった。
安良川の爺杉の根もとまで来ると、父ちゃんは叫んだ。
「天狗さまあ!おらの息子のへそが、雷さまに盗られてしまった。取り返しに行きてえんだが、力を貸してくんねえか。」
天狗さまは、ちょうど昼寝をしていたから、「ああ、面倒来せえなあ。後でまたこいや。」と、いい加減な返事をした。すると父ちゃんは、「そんたらこというなら、爺杉に火をつけっと!」と大声で叫んだ。
これには天狗さまもびっくり。爺杉に火をつけられたりしたら、寝る場所がなくなるばかりでねえ。天狗さまっちゅうのは、そもそもこの爺杉から力をもらって、妙力を発揮できるからな。
「わかった、わかった。それではお前を雷のいる雲の上に飛ばしてやるから、あとは自分でなんとかせい。」
天狗さまは大うちわをとりだし、父ちゃんをひとあおぎした。
ひゅるる~。
父ちゃんはクルクル回りながら、青空に飛んでいった。あっという間に爺杉が小さく見え、遠くに、赤ん坊を抱いてオロオロしている母ちゃんの姿が見える。そのうち、田んぼの横を流れる花貫川がミミズくらいの太さになってきた。そして、雲の上にすとんと落ちたのだ。
雲の上では雷さまが、久しぶりに立派なでべそを手に入れたので大喜びしていた。七輪で火を起こし、ほかのおへそと一緒に串にさして、さあ焼いて食べようかとしていた。そこへ、父ちゃんが突然降ってきたから、こんどは雷さまがびっくらこいた。
「ギャヒャ、何が起こった。」
父ちゃんは、とっさに雷さまにしがみついて、「こらあ雷さま、おらの息子のへそを返せ。」と怒鳴った。その拍子に、父ちゃんにつかまれていた雷さまの虎の皮のパンツが、するりと脱げてしまった。
お尻を出したまんま逃げ回る雷さまを、父ちゃんは追いかけた。
「わかった、わかった。いまからおめえの息子のへそを返しに行くから、許してくれ。」
雷さまはそういうが早いか、稲光になって地上に降っていった。
ピンヒャラ、ドッシーン
雷さまのいなくなった雲の上で、父ちゃんは茫然としていたが、我にかえるとはるか下に小さく見える爺杉に向かって叫んだ。
「おーい、天狗さまあ。おらを地上にもどしてくれ。」
「なんとも面倒くさいな。しかたがない。」
天狗さまは、大うちわをふたあおぎした。すると、父ちゃんはひゅるるる~と落ちてきて、爺杉の梢にひっかかった。
「あひゃあー、おっかねえ。」
父ちゃんは、おそるおそる爺杉をおり、母ちゃんと赤ん坊がいる田圃へと急いだ。
天狗さまは、顔をしかめてつぶやいた。
「やれやれ、礼の一言もなしか。どれ、お昼寝しなおすか。」
父ちゃんは赤ん坊の着ぐるみをめくり、ちゃんとりっぱなでべそが無事戻っているのをみて安心すると、やっとそこでヘナヘナと腰がぬけた。
しかし、母ちゃんが金切り声をあげた。
「父ちゃん、見ておくれ。坊のへそが、へそが...。」
「ああ、ちゃんとへそは戻っているじゃあねえか。」
「違あよ、坊のお腹におへそがもう一つある。」
「なんだと。」
見ると、もともとあった立派なでべその右横にもう一つ、小さめなでべそが遠慮がちな顔をしてひっついていた。なんと、さっき雷さまが食べようと串にさしていた、もう一つのおへそも一緒にひっつけてしまったのだ。
それを見て、父ちゃんは額に流れる汗をふいた。汗をふいたのは、雷さまの虎皮のパンツだった。
だから、じいたんのでべそ二つと、おらのうちには雷さまの虎皮パンツがある。ただ、じいたんの口ぐせは「じいたんが嘘ついたことがあるか?」だ。だからこの話も本当かどうか、あの虎皮のパンツも本物かどうかはわからない。
ん~、普通の大きさがどのくらいと聞かれても、答えようがないんだけど、おらのでべそとおんなじくらいの大きさだ。
なして、じいたんはおへそが二つあるかって?本当のことは知らねえんだけども、じいたんが話してくれた話を聞かせてあげっぺ。
じいたんがちっけえころ、そう田植えの時だったそうな。じいたんの父ちゃん、母ちゃんが田んぼの泥の中に入って、一生懸命早苗を植えていた。じいたんは、畦の背負いかごの中に入れられて一人遊びをしていた。そのうちに一人遊びもあきて、小さな寝息を立てはじめた。
母ちゃんが腰をのばして、手の泥がつかないように腕で額の汗をぬぐった時、にわかに雷が鳴りひびいた。雷んときに、水の中に入っているのは危ない。父ちゃんも母ちゃんもあわてて畦に這いあがった。
そんで、かごの中の赤ちゃんはどうしたかとのぞいてみたところ、あの大きな雷の音にもかかわらず、相変わらずすやすや眠っていた。ところが、着ぐるみがはだけた下に、かわいらしいお腹が見えていたんだけど、あれっ、へそが見えねえ。
母ちゃんはびっくらして、よくよく見てみたんだが、やっぱりへそがねえ。
「こりゃあ、雷さんに盗まれたにちがいねえ。」
父ちゃんは、そういうが早いかかけだした。
「あれえっ、おまえさんどこさいくんだあ?」
母ちゃんの声が聞こえたのか聞こえないのか、父ちゃんはもうどんどん走り去っていった。
安良川の爺杉の根もとまで来ると、父ちゃんは叫んだ。
「天狗さまあ!おらの息子のへそが、雷さまに盗られてしまった。取り返しに行きてえんだが、力を貸してくんねえか。」
天狗さまは、ちょうど昼寝をしていたから、「ああ、面倒来せえなあ。後でまたこいや。」と、いい加減な返事をした。すると父ちゃんは、「そんたらこというなら、爺杉に火をつけっと!」と大声で叫んだ。
これには天狗さまもびっくり。爺杉に火をつけられたりしたら、寝る場所がなくなるばかりでねえ。天狗さまっちゅうのは、そもそもこの爺杉から力をもらって、妙力を発揮できるからな。
「わかった、わかった。それではお前を雷のいる雲の上に飛ばしてやるから、あとは自分でなんとかせい。」
天狗さまは大うちわをとりだし、父ちゃんをひとあおぎした。
ひゅるる~。
父ちゃんはクルクル回りながら、青空に飛んでいった。あっという間に爺杉が小さく見え、遠くに、赤ん坊を抱いてオロオロしている母ちゃんの姿が見える。そのうち、田んぼの横を流れる花貫川がミミズくらいの太さになってきた。そして、雲の上にすとんと落ちたのだ。
雲の上では雷さまが、久しぶりに立派なでべそを手に入れたので大喜びしていた。七輪で火を起こし、ほかのおへそと一緒に串にさして、さあ焼いて食べようかとしていた。そこへ、父ちゃんが突然降ってきたから、こんどは雷さまがびっくらこいた。
「ギャヒャ、何が起こった。」
父ちゃんは、とっさに雷さまにしがみついて、「こらあ雷さま、おらの息子のへそを返せ。」と怒鳴った。その拍子に、父ちゃんにつかまれていた雷さまの虎の皮のパンツが、するりと脱げてしまった。
お尻を出したまんま逃げ回る雷さまを、父ちゃんは追いかけた。
「わかった、わかった。いまからおめえの息子のへそを返しに行くから、許してくれ。」
雷さまはそういうが早いか、稲光になって地上に降っていった。
ピンヒャラ、ドッシーン
雷さまのいなくなった雲の上で、父ちゃんは茫然としていたが、我にかえるとはるか下に小さく見える爺杉に向かって叫んだ。
「おーい、天狗さまあ。おらを地上にもどしてくれ。」
「なんとも面倒くさいな。しかたがない。」
天狗さまは、大うちわをふたあおぎした。すると、父ちゃんはひゅるるる~と落ちてきて、爺杉の梢にひっかかった。
「あひゃあー、おっかねえ。」
父ちゃんは、おそるおそる爺杉をおり、母ちゃんと赤ん坊がいる田圃へと急いだ。
天狗さまは、顔をしかめてつぶやいた。
「やれやれ、礼の一言もなしか。どれ、お昼寝しなおすか。」
父ちゃんは赤ん坊の着ぐるみをめくり、ちゃんとりっぱなでべそが無事戻っているのをみて安心すると、やっとそこでヘナヘナと腰がぬけた。
しかし、母ちゃんが金切り声をあげた。
「父ちゃん、見ておくれ。坊のへそが、へそが...。」
「ああ、ちゃんとへそは戻っているじゃあねえか。」
「違あよ、坊のお腹におへそがもう一つある。」
「なんだと。」
見ると、もともとあった立派なでべその右横にもう一つ、小さめなでべそが遠慮がちな顔をしてひっついていた。なんと、さっき雷さまが食べようと串にさしていた、もう一つのおへそも一緒にひっつけてしまったのだ。
それを見て、父ちゃんは額に流れる汗をふいた。汗をふいたのは、雷さまの虎皮のパンツだった。
だから、じいたんのでべそ二つと、おらのうちには雷さまの虎皮パンツがある。ただ、じいたんの口ぐせは「じいたんが嘘ついたことがあるか?」だ。だからこの話も本当かどうか、あの虎皮のパンツも本物かどうかはわからない。
焼け野原裁判 ― 2022年09月20日 09:53
焼け野原裁判
花貫川は、子供たちがカーブと呼んでいる水遊び場の少し上から、小さな支流が注ぎ込んでいます。 その流れを、荒屋までさかのぼると、そこはもう、一面のススキの原っぱです。学校が休みの日などは、子供たちの一群が、落合牧場の裏手の狭い土手を、危なっかしくつたってやってきては、二手に分かれて戦争ごっこをしたり、大きなお茶の木の株もとを押し広げて“すみか”と名づけたソファーにして、お弁当を食べたりしました。
でも近頃は、子供たちのそんな元気な姿は、めったに見らえなくなりました。深い草ばかりで、ところどころに思いついたように、ポツンポツンと立木があるばかりのススキ原なんかよりも、子供たちは塾が忙しいし、だいいち遊ぶのなら、テレビゲームのほうがよっぽど楽しいようです。
ですからこの頃では、このススキの原に分け入ってくるのは、南はしの道路沿いに、新しく建てられた鈴木さんの家で飼われている三毛猫くらいのものです。
ススキ原から地続きに、北へ大きく広がっている烏森の入り口近くの川辺に、太っちょダヌキのノノリがあおむけになって、目をつぶっています。十一月のあたまになったとはいっても、まだまだ暖かい日差しを浴びながら、ときおり、三角耳を思い出したようにピクリと動かします。
冬枯れの始まるころ、こうして寝転がり、川のせせらぎを聞きながら、日向ぼっこをするのが、ノノリの何よりの楽しみなのです。
水の音は、コロコロと心をなごませるようにささやき、風は、和尚山や花園山の森をかけぬけてきた時のことを歌います。
(実にいいねえ。透き通った風が、東の椿のこずえをぬける時の声などは、なんともいえずこころよいなあ。まるで、水晶山からもらった光を歌にしたようだ。ああ、あのさびしい音色は、きっと水沼の上をわたってきたんだ。)
遠くの一本杉のあたりから、モズのたかなきが加わります。
(なんてすばらしいんだろう。世界中がまるで、水色の音でみたされている。)
ノノリの胸の中は、熱いような、冷たいような、へんてこな気分でいっぱいになりました。
「火事だあっ。」
とつぜん、カケスたちがあちこちへと、てんでに飛びたちました。ノノリは、片目だけをぱちくりとあけ、あわてて飛びまわる鳥たちのほうへ、まんまる目玉をぎょろりとまわしました。
と、つぎに近くのやぶからリスが飛びだしてきて、まんまるいノノリの腹を、「ムギュッ」と踏みつけ、走り去りました。
「乱暴な奴だなあ。いったいなんだというのだ。」
風のコンサートにひたっていたあたまは、まだ急には働ききません。むくっとおきあがって、さわぎのほうを見ると、灰色のいやな感じのけむりが、もやもやと柱になって、お日様にいどみかかっています。
それを見たとたん、ノノリのあたまの中では、「はやく、はやく」という考えと、「どうしよう、どうしよう」という考えがしょうとつして、こんぐらかって、胸の太鼓がドンドコドンドコたたきだしました。それでなくても太っているため、ハアハアする息が、よけいにハアハア・・・・。
ようするに、ノノリはびっくりぎょうてん、わけがわからなくなっていしまったのです。
そこへこんどは、火事の現場へといそぐシカが、すぐ近くのやぶから走り出してきて、ノノリのおしりにおもいきり角をひっかけてしまいました。
「ギャッ」
はねとばされた太っちょダヌキは、空中でくるりんとまわって、うまいぐあいにシカの背にまたがっていました。
消防ギツネのココルが、消火作業の指揮をとっています。炎が、まるで笑いこけながら、野原を食べつくそうとする化け物のように、ススキのやぶをすでに二つ焼きつくし、ますますいきおいよく燃えさかっていますが、ココルは自慢のひげをぴんとたて、ゆうかんにたちむかっていきました。
バケツリレーがはじまり、ノノリもいちばんまえで、いちばんきけんなやく目をかって出ました。つぎつぎとバケツがわたってきて、炎に水をかけていると、うしろからザブンと水をかけられました。おどろいてふりかえると、ヤギのおばあさんが、なにを思ったのか、またもやノノリにザブン。
「やいやい!おばあさんやめてくれよ、おれさまに水をかけるのは。」
「えっえっ、ああ、ノノリさんだったのかい。わたしゃ目がわるいもんで、そのハアハア息がてっきり火のもえる音かと思って。許しておくれ。」
ずいぶん長いことかかって、探偵イタチのホホンが現場けんしょうをしていました。うでぐみをしてしばらく考えこんでは、フムフムうなづいたり、なにやらブツブツつぶやいきながら、同じところをいったりきたり。
「みなさん。」
やがて、ホホンは度のつよいメガネをずり上げ、威張ったようなくちょうでいいました。
「この火事の、ほんとうの原因は明白です。なんとなれば、わたしのこの人なみはずれた、ゆうしゅうな頭脳をもってすれば、解決できない問題などまずないのでありまして、だいたい、一九八七年に、下君田のツトムさんちの牛舎になげこまれていた、子供のクツがいったい・・・・」
「まあまあホホン君。その事件のお話はまたの時におねがいすることにして、まづは、今回のこの火事の原因のほうを。」
と、消防ギツネのココルがうながしました。ホホンは、ココルをジロリとにらみつけてから、ちょっと不満そうに鼻をヒクンとさせ、かるく一つせきばらいをしました。
「けつろんから申しましょう。犯人は鈴木さんの家で飼われている三毛猫サンタに間違いない。サンタは、野原の中に入り込み、ヒバリのピヤクをおそいました。」
「さいわいにも、この無法は失敗におわり、サンタは腹だちまぎれにタバコを一本吸ったようですな。それは、難をのがれたピヤクが上空からもくげきしておる。
そして、三毛猫サンタは、そのすいがらをそこのヤブに投げすてた。以上のことがらから、動物大学探偵学部を首席でそつぎょうしたわたくしがろんりてきな・・・・」
そこまできいて、フクロウのユスリじいさんがいいました。
「よし、ホホン君もういいわい。判決をいいわたす。
鈴木さんちの三毛猫サンタは有罪。また、サンタの飼い主鈴木さんも同じく有罪とする。
罰は、いちばん重い“仲間はずれの刑”だ。」
まわりの者たちは、みんな喜んで手をたたいたり、かんせいをあげました。まんまる太っちょのノノリも、もううれしくてピョンピョンはねました。
この名判決は、あくる日の『野原しんぶん』の一面トップに、大きくほうどうされました。
一年の月日が流れました。あの有名な裁判のあった「焼け野原」は、もうなくなっています。新しい家がどんどんたち、烏森さえも切りひらかれてしまいました。ノノリの大好きだった川のほとりには、スーパーマーケットができています。
あのけものたちや、鳥たちの姿は、どこにも見ることができません。
創作民話 でべそ女房 ― 2022年08月26日 09:36
今回はとても楽しいお話です。でもちょっぴり悲しいお話でもあるのですが、主人公の夫婦はその悲しさを笑って吹き飛ばすくらいのたくましさがあります。
気軽に楽しんでお読みください。
でべそ女房
百年に一度という大飢饉だった。村には、もう食うもんがなく、あちこちで口減らしの話が持ち上がっていた。
村の周りの山では、草の根どころか、木の根まで掘り返された。
助次どんの家も、例外ではなかった。遠い里から嫁いできたばかりのハナと二人で、何することもかなわず、寝転がってすきっ腹をなでているより、仕方がなかった。
そんなとき、ハナが恥ずかしそうにおずおずと切り出した。
「助次どん、実はあ、おれには妙なクセがあってな。ヘソからコメ粒をひり出すことができるんだ。」
驚いた助次どんは、ガバリと身を起して、ハナの顔をまじまじと眺めた。
「おめえ、何言ってんだ。腹が減りすぎて、おかしくなってしまったんか。化け物じゃあんめえし、人間にそんなことができるわけねえべ。」
「うんにゃ、おれできる。見ててくれろ。」
そういうなり、ハナは着物をまくり上げ、大きなでべそをさらした。すると、それでなくとも大きいでべそは、さらにズンコズンコ大きくなった。助次どんの拳二つくらいの大きさになったかとおもうと、突然そのでべそから、コメ粒がドンコドンコこぼれだしてきた。
これには助次どんも驚いた。
「ありゃまあ、なんてこった。なして、今まで隠してた。」
「んだって、こんなことができっと知れたら、バケモンじゃって言われるに決まってるべえ。それに、おなごなのに恥ずかしかっぺ。だから、いえんかったんじゃ。」
次の日から、助次どんの家の庭先に、長い行列ができた。助次どんが、困っている村のもんたちに、ハナのヘソの話をして、コメを分けてあげることにしたからだ。
ハナが、でべそからコメ粒をひり出す様子を見て、村のもんだれもが、口をホワンコと開けたまんま閉じることができなかった。ハナのでべそが大きくふくれる様子を眺めては、ヤンヤの騒ぎをした。
「ひええ~、こりゃあおったまげた!」
となりのバアさまは驚いた。バアさまだけじゃない、となりのとなりのジイさまも驚いて声を上げた。
「ありがてえおへそさまだ。おハナ大明神だ。」
村のもんみんなが、いいあった。
「こりゃあ、助次どんの家に足を向けて寝らんねえな。」
ほんとうに、村のもんたちは喜んだ。これでだれもが死なずにすむし、家族が散りぢりになることもなくなった。だれもが、ハナを神さまのようにありがたがったものだ。
やがて、飢饉が過ぎ去ると、村には穏やかな日々が戻ってきた。そして、数年たつと、村のもんたちは忙しく働き、ハナのでべそのことなど、すっかり忘れてしまっていた。
ところが、ふとしたことでハナの奇妙なでべそを思い出したもんがいた。
「そういえば、助次どんところのおハナは、おかしなへそを持っていたっけなあ。今考えると、なんか奇妙で恐ろしい気がするんだが。」
その考えは、村に伝染病のようにひろがった。
「おハナは、バケモンじゃああんめえか。」
「そんなもんが村にいたんじゃ、おれたちまでバケモンだと思われやしないか。」
「なんでも、おハナが米粒を出すたんびに、村のだれかの家の米びつが、カラになるそうだ。」
だんだん怪しい方に、話がかたむいていった。そのうち、その考えは黒いかたまりになって、大きくふくらんでいった。村のだれもが、子供たちまでも助次どんとハナを白い目で見るようになった。
助次どんとハナは、村にいづらくなってしまった。遠くにいる親せきをたよって、出ていくことにした。見送るもんはだれ一人いなかった。
それからは、ハナはもう、でべそからコメ粒を出すことをしなかった。コメ粒の代わりに、元気な子供を五人もその腹からひり出し、助次どんといつまでも仲良く暮らしたということだ。
でべそからコメ粒をひり出す女房の話しは、いまではもうこの村に伝わっていない。
気軽に楽しんでお読みください。
でべそ女房
百年に一度という大飢饉だった。村には、もう食うもんがなく、あちこちで口減らしの話が持ち上がっていた。
村の周りの山では、草の根どころか、木の根まで掘り返された。
助次どんの家も、例外ではなかった。遠い里から嫁いできたばかりのハナと二人で、何することもかなわず、寝転がってすきっ腹をなでているより、仕方がなかった。
そんなとき、ハナが恥ずかしそうにおずおずと切り出した。
「助次どん、実はあ、おれには妙なクセがあってな。ヘソからコメ粒をひり出すことができるんだ。」
驚いた助次どんは、ガバリと身を起して、ハナの顔をまじまじと眺めた。
「おめえ、何言ってんだ。腹が減りすぎて、おかしくなってしまったんか。化け物じゃあんめえし、人間にそんなことができるわけねえべ。」
「うんにゃ、おれできる。見ててくれろ。」
そういうなり、ハナは着物をまくり上げ、大きなでべそをさらした。すると、それでなくとも大きいでべそは、さらにズンコズンコ大きくなった。助次どんの拳二つくらいの大きさになったかとおもうと、突然そのでべそから、コメ粒がドンコドンコこぼれだしてきた。
これには助次どんも驚いた。
「ありゃまあ、なんてこった。なして、今まで隠してた。」
「んだって、こんなことができっと知れたら、バケモンじゃって言われるに決まってるべえ。それに、おなごなのに恥ずかしかっぺ。だから、いえんかったんじゃ。」
次の日から、助次どんの家の庭先に、長い行列ができた。助次どんが、困っている村のもんたちに、ハナのヘソの話をして、コメを分けてあげることにしたからだ。
ハナが、でべそからコメ粒をひり出す様子を見て、村のもんだれもが、口をホワンコと開けたまんま閉じることができなかった。ハナのでべそが大きくふくれる様子を眺めては、ヤンヤの騒ぎをした。
「ひええ~、こりゃあおったまげた!」
となりのバアさまは驚いた。バアさまだけじゃない、となりのとなりのジイさまも驚いて声を上げた。
「ありがてえおへそさまだ。おハナ大明神だ。」
村のもんみんなが、いいあった。
「こりゃあ、助次どんの家に足を向けて寝らんねえな。」
ほんとうに、村のもんたちは喜んだ。これでだれもが死なずにすむし、家族が散りぢりになることもなくなった。だれもが、ハナを神さまのようにありがたがったものだ。
やがて、飢饉が過ぎ去ると、村には穏やかな日々が戻ってきた。そして、数年たつと、村のもんたちは忙しく働き、ハナのでべそのことなど、すっかり忘れてしまっていた。
ところが、ふとしたことでハナの奇妙なでべそを思い出したもんがいた。
「そういえば、助次どんところのおハナは、おかしなへそを持っていたっけなあ。今考えると、なんか奇妙で恐ろしい気がするんだが。」
その考えは、村に伝染病のようにひろがった。
「おハナは、バケモンじゃああんめえか。」
「そんなもんが村にいたんじゃ、おれたちまでバケモンだと思われやしないか。」
「なんでも、おハナが米粒を出すたんびに、村のだれかの家の米びつが、カラになるそうだ。」
だんだん怪しい方に、話がかたむいていった。そのうち、その考えは黒いかたまりになって、大きくふくらんでいった。村のだれもが、子供たちまでも助次どんとハナを白い目で見るようになった。
助次どんとハナは、村にいづらくなってしまった。遠くにいる親せきをたよって、出ていくことにした。見送るもんはだれ一人いなかった。
それからは、ハナはもう、でべそからコメ粒を出すことをしなかった。コメ粒の代わりに、元気な子供を五人もその腹からひり出し、助次どんといつまでも仲良く暮らしたということだ。
でべそからコメ粒をひり出す女房の話しは、いまではもうこの村に伝わっていない。
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