創作民話 風邪ひき2023年05月26日 12:04

 鳥たちも恋の季節です。ブロック塀の穴を使って、シジュウカラがかくれんぼをしていました。奥側の男性(と勝手に想像して)がしばらく塀のうえで何か探していました。しばらく様子を見ていると、一つの穴に頭を突っ込んで「みいつけた!」と囀りました。すると、手前側の女性(と勝手に想像して)が穴から姿を現したのです。
 連続で撮ったので、全部お見せできれば良いのですが、これ一枚で我慢してください。





     風邪ひき



 むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが、住んでおりました。近所の人たちは、とても仲むつまじい夫婦だと、評判しておりました。おばあさんが、いつでもおじいさんのことを気づかって、細やかにあれこれとお世話している様子を見ていたからです。
 おじいさんの大好きなお酒を切らすことがないようにと、毎日酒屋さんに買いに行くのを見ていましたし、おじいさんが酔っ払ってわがまま言うのを、いやな顔一つせずに、「ほれおじいさん、足元に気をつけてくださいよ。」と、にこにこ介抱しているのを見ていたからです。

 ある日、おばあさんが風邪をひいたらしく、つらそうにしておりました。それでも畑の野菜は水を欲しがるし、草が伸びるのは待ってくれません。おじいさんの身の周りのこともしないとならず、一生懸命お仕事をしました。二日、三日と日がたつにつれ、本当につらそうなのが、誰が見てもわかるほどでした。
 そんなおばあさんの様子を見て、おじいさんは「仕事がいやで、つらそうなふりをしているのだな。けしかんばあさんだ。」と考えました。しかし考えようによっては、これは良い機会かもしれないと、おじいさんは思いました。
 おじいさんは、「そんなに具合が悪いのだったら、奥の間に布団を敷いて寝ているがいい。」と言いました。おばあさんは、おじいさんの優しい言葉に涙が出そうになり、「じゃあおじいさん、申し訳ありませんが少し横にさせてもらいますね。」と、奥の部屋で布団にもぐりこみました。
おばあさんが寝込んだのをたしかめると、おじいさんは酒びんと茶碗を取り出し、好きなだけお酒を飲みました。
 おそばをゆで、ひとりで「ズズ-、ズズズー」とすすりました。おばあさんは布団の中で、「私の風邪をおじいさんに移してしまったのだねえ。あんなに強く鼻をかんでいるのだもの。」とおじいさんにすまなく思いました。
 次におじいさんは、豆の入った鍋を囲炉裏の火にかけました。豆はパチパチと忙しく、楽しそうに跳ねまわりました。
 おばあさんは、「あらあら、おじいさんがわたしのためにおかゆを作るのに、囲炉裏に小枝をくべているんだね。すまないねえ。」と考えながら、いつの間にか眠ってしまいました。

 そんなある日、今度はおじいさんが具合悪くなりました。おばあさんはとても心配して、静かに寝ていられるように奥の部屋に急いで布団を敷き、そこにおじいさんを寝かせました。
 するとおじいさんは、「ばあさんはおれのことを、こんなところに閉じ込めて、一人で好きほうだいをするするつもりだな。」と考えました。
 まだ治りきってはいないおばあさんは、茶の間で鼻をかみました。「ずずずー」と大きな音で、鼻をかんだのです。
 その音を奥の部屋で聞いたおじいさんは、「やや、ばあさんは一人っきりでそばをすすっているな。まったくひどい奴だ。」とくやしがりました。
 おばあさんは、おじいさんに温かいおかゆを作ってあげようと、囲炉裏に小枝をくべました。すると、囲炉裏はパチパチと愉快そうな音をたてました。
 その音をきくとおじいさんは、「あれ、ばあさんは一人で豆をいって食べているのだな。意地きたない奴だ。」と思いました。
 おばあさんが、温かいお粥を枕元に運んでくると、「自分は散々においしいものを食べておいて、俺にはこんな粗末な粥をいっぱいきりしか食わせないのか。本当にひどいばあさんだ。」と考えたのです。

 おじいさんもおばあさんも、すっかり病気が治ったある日、おじいさんが言いました。
 「やいばあさん、長いことおまえと連れ添ってきたが、お前がこれほど意地きたない奴だとは知らなかった。もう顔も見たくないから、出て行け。」
 おばあさんはもう、ただびっくり。「おじいさん、何のことを言っているんですか?」と、聞き返しましたが、おじいさんは聞く耳がありませんでした。おばあさんは、泣く泣く遠い実家へ帰っていきました。
 これで余分なばあさんはいなくなった、好きなものを好きなだけ独り占めできるわい。おじいさんは、晴れ晴れとした気持ちになり、毎日まいにちお酒を飲み、好きなだけ食っては寝ていました。
 でも、畑の野菜たちは喉がかわいて、しなびてしまいました。雑草はおばあさんに引き抜かれることがないので、思い切り背伸びしました。
 おじいさんは、久しぶりに野菜をとりに畑に出てみて、びっくりしてしまいました。もうそこは、畑と呼べるようなものではなく、背の高い雑草ばかりの草原になっていました。
 おじいさんは、飲むお酒もなくなり、食べるものも何一つなくなってしまい、また具合が悪くなり寝込んでしまいました。
 そこへ、おばあさんがおじいさんを心配して、戻ってまいりました。さっそく実家から背負ってきたお米とお味噌で、おじいさんに温かいご飯を作ってあげました。お酒も少しですが、持ってまいりましたので、飲ませてあげました。
 おじいさんは何にも言わないで、お酒を飲みご飯を食べると、照れくさそうにまた布団にもぐりこんでしまいました。