創作民話 でべそ女房 ― 2022年08月26日 09:36
今回はとても楽しいお話です。でもちょっぴり悲しいお話でもあるのですが、主人公の夫婦はその悲しさを笑って吹き飛ばすくらいのたくましさがあります。
気軽に楽しんでお読みください。
でべそ女房
百年に一度という大飢饉だった。村には、もう食うもんがなく、あちこちで口減らしの話が持ち上がっていた。
村の周りの山では、草の根どころか、木の根まで掘り返された。
助次どんの家も、例外ではなかった。遠い里から嫁いできたばかりのハナと二人で、何することもかなわず、寝転がってすきっ腹をなでているより、仕方がなかった。
そんなとき、ハナが恥ずかしそうにおずおずと切り出した。
「助次どん、実はあ、おれには妙なクセがあってな。ヘソからコメ粒をひり出すことができるんだ。」
驚いた助次どんは、ガバリと身を起して、ハナの顔をまじまじと眺めた。
「おめえ、何言ってんだ。腹が減りすぎて、おかしくなってしまったんか。化け物じゃあんめえし、人間にそんなことができるわけねえべ。」
「うんにゃ、おれできる。見ててくれろ。」
そういうなり、ハナは着物をまくり上げ、大きなでべそをさらした。すると、それでなくとも大きいでべそは、さらにズンコズンコ大きくなった。助次どんの拳二つくらいの大きさになったかとおもうと、突然そのでべそから、コメ粒がドンコドンコこぼれだしてきた。
これには助次どんも驚いた。
「ありゃまあ、なんてこった。なして、今まで隠してた。」
「んだって、こんなことができっと知れたら、バケモンじゃって言われるに決まってるべえ。それに、おなごなのに恥ずかしかっぺ。だから、いえんかったんじゃ。」
次の日から、助次どんの家の庭先に、長い行列ができた。助次どんが、困っている村のもんたちに、ハナのヘソの話をして、コメを分けてあげることにしたからだ。
ハナが、でべそからコメ粒をひり出す様子を見て、村のもんだれもが、口をホワンコと開けたまんま閉じることができなかった。ハナのでべそが大きくふくれる様子を眺めては、ヤンヤの騒ぎをした。
「ひええ~、こりゃあおったまげた!」
となりのバアさまは驚いた。バアさまだけじゃない、となりのとなりのジイさまも驚いて声を上げた。
「ありがてえおへそさまだ。おハナ大明神だ。」
村のもんみんなが、いいあった。
「こりゃあ、助次どんの家に足を向けて寝らんねえな。」
ほんとうに、村のもんたちは喜んだ。これでだれもが死なずにすむし、家族が散りぢりになることもなくなった。だれもが、ハナを神さまのようにありがたがったものだ。
やがて、飢饉が過ぎ去ると、村には穏やかな日々が戻ってきた。そして、数年たつと、村のもんたちは忙しく働き、ハナのでべそのことなど、すっかり忘れてしまっていた。
ところが、ふとしたことでハナの奇妙なでべそを思い出したもんがいた。
「そういえば、助次どんところのおハナは、おかしなへそを持っていたっけなあ。今考えると、なんか奇妙で恐ろしい気がするんだが。」
その考えは、村に伝染病のようにひろがった。
「おハナは、バケモンじゃああんめえか。」
「そんなもんが村にいたんじゃ、おれたちまでバケモンだと思われやしないか。」
「なんでも、おハナが米粒を出すたんびに、村のだれかの家の米びつが、カラになるそうだ。」
だんだん怪しい方に、話がかたむいていった。そのうち、その考えは黒いかたまりになって、大きくふくらんでいった。村のだれもが、子供たちまでも助次どんとハナを白い目で見るようになった。
助次どんとハナは、村にいづらくなってしまった。遠くにいる親せきをたよって、出ていくことにした。見送るもんはだれ一人いなかった。
それからは、ハナはもう、でべそからコメ粒を出すことをしなかった。コメ粒の代わりに、元気な子供を五人もその腹からひり出し、助次どんといつまでも仲良く暮らしたということだ。
でべそからコメ粒をひり出す女房の話しは、いまではもうこの村に伝わっていない。
気軽に楽しんでお読みください。
でべそ女房
百年に一度という大飢饉だった。村には、もう食うもんがなく、あちこちで口減らしの話が持ち上がっていた。
村の周りの山では、草の根どころか、木の根まで掘り返された。
助次どんの家も、例外ではなかった。遠い里から嫁いできたばかりのハナと二人で、何することもかなわず、寝転がってすきっ腹をなでているより、仕方がなかった。
そんなとき、ハナが恥ずかしそうにおずおずと切り出した。
「助次どん、実はあ、おれには妙なクセがあってな。ヘソからコメ粒をひり出すことができるんだ。」
驚いた助次どんは、ガバリと身を起して、ハナの顔をまじまじと眺めた。
「おめえ、何言ってんだ。腹が減りすぎて、おかしくなってしまったんか。化け物じゃあんめえし、人間にそんなことができるわけねえべ。」
「うんにゃ、おれできる。見ててくれろ。」
そういうなり、ハナは着物をまくり上げ、大きなでべそをさらした。すると、それでなくとも大きいでべそは、さらにズンコズンコ大きくなった。助次どんの拳二つくらいの大きさになったかとおもうと、突然そのでべそから、コメ粒がドンコドンコこぼれだしてきた。
これには助次どんも驚いた。
「ありゃまあ、なんてこった。なして、今まで隠してた。」
「んだって、こんなことができっと知れたら、バケモンじゃって言われるに決まってるべえ。それに、おなごなのに恥ずかしかっぺ。だから、いえんかったんじゃ。」
次の日から、助次どんの家の庭先に、長い行列ができた。助次どんが、困っている村のもんたちに、ハナのヘソの話をして、コメを分けてあげることにしたからだ。
ハナが、でべそからコメ粒をひり出す様子を見て、村のもんだれもが、口をホワンコと開けたまんま閉じることができなかった。ハナのでべそが大きくふくれる様子を眺めては、ヤンヤの騒ぎをした。
「ひええ~、こりゃあおったまげた!」
となりのバアさまは驚いた。バアさまだけじゃない、となりのとなりのジイさまも驚いて声を上げた。
「ありがてえおへそさまだ。おハナ大明神だ。」
村のもんみんなが、いいあった。
「こりゃあ、助次どんの家に足を向けて寝らんねえな。」
ほんとうに、村のもんたちは喜んだ。これでだれもが死なずにすむし、家族が散りぢりになることもなくなった。だれもが、ハナを神さまのようにありがたがったものだ。
やがて、飢饉が過ぎ去ると、村には穏やかな日々が戻ってきた。そして、数年たつと、村のもんたちは忙しく働き、ハナのでべそのことなど、すっかり忘れてしまっていた。
ところが、ふとしたことでハナの奇妙なでべそを思い出したもんがいた。
「そういえば、助次どんところのおハナは、おかしなへそを持っていたっけなあ。今考えると、なんか奇妙で恐ろしい気がするんだが。」
その考えは、村に伝染病のようにひろがった。
「おハナは、バケモンじゃああんめえか。」
「そんなもんが村にいたんじゃ、おれたちまでバケモンだと思われやしないか。」
「なんでも、おハナが米粒を出すたんびに、村のだれかの家の米びつが、カラになるそうだ。」
だんだん怪しい方に、話がかたむいていった。そのうち、その考えは黒いかたまりになって、大きくふくらんでいった。村のだれもが、子供たちまでも助次どんとハナを白い目で見るようになった。
助次どんとハナは、村にいづらくなってしまった。遠くにいる親せきをたよって、出ていくことにした。見送るもんはだれ一人いなかった。
それからは、ハナはもう、でべそからコメ粒を出すことをしなかった。コメ粒の代わりに、元気な子供を五人もその腹からひり出し、助次どんといつまでも仲良く暮らしたということだ。
でべそからコメ粒をひり出す女房の話しは、いまではもうこの村に伝わっていない。
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