グフムフ王国物語 3 グフムフ三世月へ行く ― 2022年06月29日 16:26
グフムフ王国物語は、三作目になります。今回はグフムフ三世が月旅行をします。どうやって月に行くのか、それはこれから読んでみてください。
写真は、江戸時代の儒学者、地理学者、天文学者だった長久保赤水が描いた月と太陽の絵です。アタナシウス・キルヒャーが著わした『地下世界』という本の図像を模写したものと思われます。同じような図は、司馬江漢などが後に銅版画で描いていますが、赤水のものはそれに先んじるもので非常に貴重なものです。
国の重要文化財に指定され、高萩歴史民俗資料館に収蔵されています。
グフムフ王国物語 3
グフムフ三世月へ行く
グフムフ三世は、玉座で気持ちよさそうにお昼寝をしていました。七色に光る鼻ちょうちんが、ピュヒューとふくらんだり、ムヒューとしぼんだりしています。
王様は突然目が覚め、ガバリと起きると、「ソンタ君はいるか。」と、声をはりあげました。
一等書記官ソンタは、王様のおやつにと用意していたたこ焼きを、ちょうどつまみ食いしていた最中でしたが、あわてて王様の前にとんで出て、「アフアフ、ニャ。」と、わけのわからない返事をしました。
「なんだ、ソンタ君。またつまみ食いか。」
王様は、ソンタの口元にだらしなく垂れている、ひょっとこソースをじろりと眺めながら、非難がましく睨みました。
(いつもソンタ君は、わしのおやつを半分以上食べてしまうのだから・・・)
王様は、いつもおやつが少ないのがとても不満でした。おやつを運んでくるソンタは、いつもきまって口をもごもごさせ、
「王様、おやつですよ。味見しておきましたが、とてもおいしいですよ。」
と、ゲップをするのです。それが王様には気に入りません。おやつが足りない!
そうそう、そういえば、グフムフ三世がどのような容姿なのか、これまで一度もお話ししていませんでしたね。
グフムフ三世は、背が小さく、頭が異様に大きく(ちょうどスマホのオンラインゲームに出てくるような二頭身にちかいかも)、細長いはなひげを上に向けて長くカールさせ(ちょうどダンゴ鼻の両側にひげの輪があるようです)、とってもずんぐりむっくりです。
おまけに、金髪のかつらをかぶり、さらに色とりどりのガラス玉で、ごちゃごちゃと飾り立てた冠をかぶっています。目玉は大きく、いまにも落ちてしまいそう。大きく横に広がった分厚い唇をしています。
さあ、君たちには想像できたかな。そうです。これこそが、われらがグフムフ三世、その人です。とにかく、そんな感じのグフムフ三世を想像しておいてください。
まあ、グフムフ三世の紹介はこれくらいにしておきましょう。
グフムフ三世は、ソンタの持っていたたこ焼きを、一度に六個も手づかみにして口にほおばりました。口いっぱいになり、あごが動きません。たこ焼きの破片を口からとばしながら、ソンタに向かって叫びました。
「あわわわ、あわわわ。」
ソンタはそれを聞くと部屋を飛び出していきました。ソンタが向かったのは、王立天文台です。
ソンタは、王様がお昼寝する前に『子供にもわかる宇宙のはなし』という本を読んでいたのを知っています。きっと王様は、宇宙の夢を見たに違いないと考えたのです。
「多分、お月さまにでも行った夢を見たに違いないんだ。」
王立天文台には、偉大な天文学者ケプロル博士がいました。ケプロル博士は、はるか北にある夜の国の偉大な天文学者コチコチ・ブラブラーエに教えを受けた大天才です。
普段は、弟子たちを使って、お星さまなど天体の動きを調べていました。それから年に一度、グフムフ暦を作るという大切な仕事がありました。
この暦は、グフムフ三世の誕生日をグフムフ元年一月一日としたカレンダーです。当然のことですが、王国のだれもこんなでたらめな暦を使ってはいませんでした。
それはともかく、ソンタはケプロル博士に大きな声で呼びかけました。
「ねえ、ケプロル博士。どうも王様がお月さまにでも行きたいらしいのですが。何とかなりませんかあ?」
「なにい、王様が月に行きたいじゃと?」
ケプロル博士は、あっけにとられて口をあんぐり開けました。
ややあって、博士は言いました。
「まあ、手立てがないわけでもない。」
「えっ、行けるんですか?」
「ああ、これはとても難しい魔法を使うことになるのだが、まあできないことはない。」
大きな声では言えませんが、ケプロル博士のお母さんヘクラは魔女でした。博士の説明はこうです。
お月さまへ行くには、魔法の通り道を利用する。地球からおよそ八万キロメートルのかなたに、レバニラという島が浮いている。ヘクラが二十一文字の秘密の呪文で精霊を呼び出し、その精霊の力でレバニラ島まで魔法の通り道を開く。
さらにそこからは、ケプロルの第三法則を使えばおよそ二時間でお月さまにつくはずだ。
ソンタには、博士が何を言っているのかさっぱりでした。
「ちょうど今夜は、幸いなことに、精霊の力で魔法の通り道をかけることができる条件が整っておる。
さあ、月の東側が月食になる前に出かけようではないか。このようなチャンスは、数十年に一度のことなのだぞ。」
ソンタは、喜んで王様のもとに飛んでいきました。
「王様、朗報です。お月さまに行けます。大至急支度をしてください。」
王様はあっけにとられて、やはりお口をあんぐり。ソンタが何を言っているのか、飲み込めませんでした。そもそも、王様が見ていた夢は、おやつのバナナをソンタと取り合いしている悪夢だったのですから。
ま、それはいいとして、お月さまへ行けるなんてチャンスはそうそうあるものではありません。
「本当なのか、ソンタ君。それでは二人で一緒に行くことにしよう。」
「ええーっ、私も一緒ですかあ。」
「当り前じゃないか。さあ、さっそく行くぞよ。」
ということで、二人は王立天文台から、お月さまへ旅立つことになったのです。
最初に、魔女ヘクラの呪文が始まりました。例の二十一文字の呪文です。この呪文は、本当に秘密のものなので、皆さんにお聞かせできないのが残念です。(でも君にだけ内緒で、教えてあげましょうね。「Astronomia Copernicana」これは、ラテン語という外国の言葉です。恐ろしい呪文ですから、くれぐれも、ほかの人に教えてはいけませんよ。)
ヘクラの呪文と同時に、グフムフ三世と一等書記官ソンタの姿は、王立天文台から煙のように消えてしまいました。嫌がるソンタの「嫌だあー、行きたくなあーい。」という声だけを残して。
レバニラ島についた二人は、その異様さにびっくり。ここには、魔女がひしめくように大勢いるのです。気が付くと、グフムフ三世の隣に、ヘクラがいました。
「王様、少しレバニラ島を見物していくかえ。」
「そうだな、こんな宇宙の真ん中に浮いている魔女の島なんて、そうめったにみられるものでない。」
そんな二人の会話に、ソンタは気が気ではありませんでした。こんな気味の悪い島に一時もいたくありません。妙な魔法の薬を煮詰めているにおいが立ち込め、あちらこちらで不気味な生き物の鳴き声がしているではないですか。
「王様、こんな怪しいところは、早めにおいとましましょうよ。」
ソンタが泣きべそ顔で言う間にも、もう王様はヘクラと仲良く歩き出していました。
レバニラ島では、魔女たちがさまざまな魔法の道具や、材料をこしらえたり、取引したりしていました。また、広場では新しく覚えたばかりの魔法を、呪文を唱えて練習している光景も見られました。
さて、お話を進めないとならないので、先を急ぎます。グフムフ三世とソンタの二人は、魔女ヘクラの助けで、いよいよ月までやってきました。なんでも、ケプロル第三の法則を応用したらしいのですが、詳しいことはわからないので、ここでは説明しません。
月につくと、ヘクラは王様を月一番のホテル、グランド・ムーンムンに案内しました。二階建ての丸いガラスでできた素敵なホテルです。
あ、そうそう。言い忘れていましたが、ここは地球から見ると、月の裏側です。魔女は月食の闇の部分を通って、月の裏側に来れるのでした。魔法は、闇で効力を発揮しますからね。
グフムフ三世は、あることに気づきました。体が異様に軽いのです。グランド・ムーンムンの中にあるスポーツジムで試してみると、高跳びをすると、なんと二メートルちかくも跳び跳ねることができたのです。軽々と、ソンタを跳び越えることができるではないですか。
重量挙げをすると、百キログラムも平気です。
「これはなんということだ。きっと、ヘクラの魔法のせいかもしれない。わしは力持ちになったのだ。」
グフムフ三世は、うれしくなってしまいました。
「これなら、フムフム共和国のナンジャモン大統領にも、ムフムフ王国のヘンペイラ大王にも勝てるぞ。決めた!地球に帰ったら、スポーツ戦争をするとしよう。」
それを、脇でソンタがうんざりした表情で聞いていました。しかたなく、ヘクラにお願いしました。
「ヘクラさん、王宮と連絡したいのだけど。」
「それなら、この水晶玉を使うがよい。」
ソンタは、魔法の水晶玉を借りて、一番大臣と一番役所へ連絡しました。
「これから、王様が帰還します。午後には、スポーツ戦争をしますので、準備をお願いします。」
一番大臣と一番役所は、さあ大変。大急ぎで準備を開始しました。まずは、フムフム共和国とムフムフ王国へスポーツ戦争の宣戦布告です。なんとなんと、これは珍しくあっという間にお仕事完了したのでした。グフムフ王国のお役所としては、奇跡です。
さて、ケプロル博士の計算では、月食は4時間20分24秒で終わってしまいますので、それまでに帰らなければなりません。ケプロル第三法則と、魔女ヘクラの力を借り、意気揚々と地球に帰ったグフムフ三世は、さっそくスポーツ戦争に参加しました。
スポーツ戦争では、一番負けた人が、ひげをそられるということにしてありました。
ムフムフ王国のヘンペイラ大王は、鼻下から顎にかけて立派な髭が生えていますが、フムフム共和国のナンジャモン大統領は、ついこの間、自転車戦争で負けたために、グフムフ三世にそられたばかりで、やっと生えそろってきたばかりです。
まあ、それでもこの二人は普段から力自慢で通っていましたので、よもや、グフムフ三世に負けると思っていません。ひげをそられるのは、もうグフムフ三世で決まったようなものです。
ところが、グフムフ王立体育館に入った二人は、ギョッと一瞬にして青ざめました。受付の後ろに、六メートルも舞い跳ぶグフムフ三世の颯爽たる写真が貼ってあったのです。さらに、重たそうなバーベルを持ち上げている写真がその横に。(もちろん、月で撮ったことを二人は知りません)
それを見た二人は、何とか理由をつけて帰ろうとしました。ところが、そこにグフムフ三世が現れ、「やあ、お二人ともようこそ。わざわざ負けに来てくれたのですな。ワハハハ。」というものですから、引くに引けなくなってしまいました。
競技は二つ。グフムフ三世お得意の、高跳びと重量挙げです。
最初は、高跳びです。
「ええーい!」
ヘンペイラ大王は、気合とともに飛び上がりました。素晴らしい跳躍です。九十一センチメートルです。
続いてナンジャモン大統領が飛びました。九十一センチと二ミリメートルです。
「なんじゃ、まるで子供のお遊びだな。これなら楽勝だ。何しろわしは二メートルも跳べるのだから。えいやあーっ。」
記録は三十一センチメートルです。
「そんな馬鹿なっ。」
重量挙げでは、最初にナンジャモン大統領が挑戦しました。
「ほいやーっ。」
八十キログラムを挙げました。
ヘンペイラ大王は八十四キログラムを挙げました。
満を持して、我らがグフムフ三世の登場です。ソンタが盛大に拍手します。
「ええいやー。」
ちっとも挙げられません。おもりをどんどん少なくして、たった十キログラムを挙げて終わりました。
皆さんはなぜかわかっていますよね。月の重力は、地球の六分の一しかないのです。ですから、月では物の重さが六分の一の軽さになります。決して、グフムフ三世が力持ちになったわけではなかったのですね。魔女ヘクラは何もしていません。
そのうえ、地球の外でしばらく遊びほうけていたので、骨が弱くなり、筋肉も衰えていたのです。
したがって、ムフムフ王国ヘンペイラ大王と、フムフム共和国ナンジャモン大統領は、たっぷり時間をかけ、嬉しそうにグフムフ三世のひげをそり落としました。
グフムフ三世は、わけがわからず泣きべそをかきました。君が、グフムフ三世にあうことがあったら、わけを教えてあげてくださいね。
写真は、江戸時代の儒学者、地理学者、天文学者だった長久保赤水が描いた月と太陽の絵です。アタナシウス・キルヒャーが著わした『地下世界』という本の図像を模写したものと思われます。同じような図は、司馬江漢などが後に銅版画で描いていますが、赤水のものはそれに先んじるもので非常に貴重なものです。
国の重要文化財に指定され、高萩歴史民俗資料館に収蔵されています。
グフムフ王国物語 3
グフムフ三世月へ行く
グフムフ三世は、玉座で気持ちよさそうにお昼寝をしていました。七色に光る鼻ちょうちんが、ピュヒューとふくらんだり、ムヒューとしぼんだりしています。
王様は突然目が覚め、ガバリと起きると、「ソンタ君はいるか。」と、声をはりあげました。
一等書記官ソンタは、王様のおやつにと用意していたたこ焼きを、ちょうどつまみ食いしていた最中でしたが、あわてて王様の前にとんで出て、「アフアフ、ニャ。」と、わけのわからない返事をしました。
「なんだ、ソンタ君。またつまみ食いか。」
王様は、ソンタの口元にだらしなく垂れている、ひょっとこソースをじろりと眺めながら、非難がましく睨みました。
(いつもソンタ君は、わしのおやつを半分以上食べてしまうのだから・・・)
王様は、いつもおやつが少ないのがとても不満でした。おやつを運んでくるソンタは、いつもきまって口をもごもごさせ、
「王様、おやつですよ。味見しておきましたが、とてもおいしいですよ。」
と、ゲップをするのです。それが王様には気に入りません。おやつが足りない!
そうそう、そういえば、グフムフ三世がどのような容姿なのか、これまで一度もお話ししていませんでしたね。
グフムフ三世は、背が小さく、頭が異様に大きく(ちょうどスマホのオンラインゲームに出てくるような二頭身にちかいかも)、細長いはなひげを上に向けて長くカールさせ(ちょうどダンゴ鼻の両側にひげの輪があるようです)、とってもずんぐりむっくりです。
おまけに、金髪のかつらをかぶり、さらに色とりどりのガラス玉で、ごちゃごちゃと飾り立てた冠をかぶっています。目玉は大きく、いまにも落ちてしまいそう。大きく横に広がった分厚い唇をしています。
さあ、君たちには想像できたかな。そうです。これこそが、われらがグフムフ三世、その人です。とにかく、そんな感じのグフムフ三世を想像しておいてください。
まあ、グフムフ三世の紹介はこれくらいにしておきましょう。
グフムフ三世は、ソンタの持っていたたこ焼きを、一度に六個も手づかみにして口にほおばりました。口いっぱいになり、あごが動きません。たこ焼きの破片を口からとばしながら、ソンタに向かって叫びました。
「あわわわ、あわわわ。」
ソンタはそれを聞くと部屋を飛び出していきました。ソンタが向かったのは、王立天文台です。
ソンタは、王様がお昼寝する前に『子供にもわかる宇宙のはなし』という本を読んでいたのを知っています。きっと王様は、宇宙の夢を見たに違いないと考えたのです。
「多分、お月さまにでも行った夢を見たに違いないんだ。」
王立天文台には、偉大な天文学者ケプロル博士がいました。ケプロル博士は、はるか北にある夜の国の偉大な天文学者コチコチ・ブラブラーエに教えを受けた大天才です。
普段は、弟子たちを使って、お星さまなど天体の動きを調べていました。それから年に一度、グフムフ暦を作るという大切な仕事がありました。
この暦は、グフムフ三世の誕生日をグフムフ元年一月一日としたカレンダーです。当然のことですが、王国のだれもこんなでたらめな暦を使ってはいませんでした。
それはともかく、ソンタはケプロル博士に大きな声で呼びかけました。
「ねえ、ケプロル博士。どうも王様がお月さまにでも行きたいらしいのですが。何とかなりませんかあ?」
「なにい、王様が月に行きたいじゃと?」
ケプロル博士は、あっけにとられて口をあんぐり開けました。
ややあって、博士は言いました。
「まあ、手立てがないわけでもない。」
「えっ、行けるんですか?」
「ああ、これはとても難しい魔法を使うことになるのだが、まあできないことはない。」
大きな声では言えませんが、ケプロル博士のお母さんヘクラは魔女でした。博士の説明はこうです。
お月さまへ行くには、魔法の通り道を利用する。地球からおよそ八万キロメートルのかなたに、レバニラという島が浮いている。ヘクラが二十一文字の秘密の呪文で精霊を呼び出し、その精霊の力でレバニラ島まで魔法の通り道を開く。
さらにそこからは、ケプロルの第三法則を使えばおよそ二時間でお月さまにつくはずだ。
ソンタには、博士が何を言っているのかさっぱりでした。
「ちょうど今夜は、幸いなことに、精霊の力で魔法の通り道をかけることができる条件が整っておる。
さあ、月の東側が月食になる前に出かけようではないか。このようなチャンスは、数十年に一度のことなのだぞ。」
ソンタは、喜んで王様のもとに飛んでいきました。
「王様、朗報です。お月さまに行けます。大至急支度をしてください。」
王様はあっけにとられて、やはりお口をあんぐり。ソンタが何を言っているのか、飲み込めませんでした。そもそも、王様が見ていた夢は、おやつのバナナをソンタと取り合いしている悪夢だったのですから。
ま、それはいいとして、お月さまへ行けるなんてチャンスはそうそうあるものではありません。
「本当なのか、ソンタ君。それでは二人で一緒に行くことにしよう。」
「ええーっ、私も一緒ですかあ。」
「当り前じゃないか。さあ、さっそく行くぞよ。」
ということで、二人は王立天文台から、お月さまへ旅立つことになったのです。
最初に、魔女ヘクラの呪文が始まりました。例の二十一文字の呪文です。この呪文は、本当に秘密のものなので、皆さんにお聞かせできないのが残念です。(でも君にだけ内緒で、教えてあげましょうね。「Astronomia Copernicana」これは、ラテン語という外国の言葉です。恐ろしい呪文ですから、くれぐれも、ほかの人に教えてはいけませんよ。)
ヘクラの呪文と同時に、グフムフ三世と一等書記官ソンタの姿は、王立天文台から煙のように消えてしまいました。嫌がるソンタの「嫌だあー、行きたくなあーい。」という声だけを残して。
レバニラ島についた二人は、その異様さにびっくり。ここには、魔女がひしめくように大勢いるのです。気が付くと、グフムフ三世の隣に、ヘクラがいました。
「王様、少しレバニラ島を見物していくかえ。」
「そうだな、こんな宇宙の真ん中に浮いている魔女の島なんて、そうめったにみられるものでない。」
そんな二人の会話に、ソンタは気が気ではありませんでした。こんな気味の悪い島に一時もいたくありません。妙な魔法の薬を煮詰めているにおいが立ち込め、あちらこちらで不気味な生き物の鳴き声がしているではないですか。
「王様、こんな怪しいところは、早めにおいとましましょうよ。」
ソンタが泣きべそ顔で言う間にも、もう王様はヘクラと仲良く歩き出していました。
レバニラ島では、魔女たちがさまざまな魔法の道具や、材料をこしらえたり、取引したりしていました。また、広場では新しく覚えたばかりの魔法を、呪文を唱えて練習している光景も見られました。
さて、お話を進めないとならないので、先を急ぎます。グフムフ三世とソンタの二人は、魔女ヘクラの助けで、いよいよ月までやってきました。なんでも、ケプロル第三の法則を応用したらしいのですが、詳しいことはわからないので、ここでは説明しません。
月につくと、ヘクラは王様を月一番のホテル、グランド・ムーンムンに案内しました。二階建ての丸いガラスでできた素敵なホテルです。
あ、そうそう。言い忘れていましたが、ここは地球から見ると、月の裏側です。魔女は月食の闇の部分を通って、月の裏側に来れるのでした。魔法は、闇で効力を発揮しますからね。
グフムフ三世は、あることに気づきました。体が異様に軽いのです。グランド・ムーンムンの中にあるスポーツジムで試してみると、高跳びをすると、なんと二メートルちかくも跳び跳ねることができたのです。軽々と、ソンタを跳び越えることができるではないですか。
重量挙げをすると、百キログラムも平気です。
「これはなんということだ。きっと、ヘクラの魔法のせいかもしれない。わしは力持ちになったのだ。」
グフムフ三世は、うれしくなってしまいました。
「これなら、フムフム共和国のナンジャモン大統領にも、ムフムフ王国のヘンペイラ大王にも勝てるぞ。決めた!地球に帰ったら、スポーツ戦争をするとしよう。」
それを、脇でソンタがうんざりした表情で聞いていました。しかたなく、ヘクラにお願いしました。
「ヘクラさん、王宮と連絡したいのだけど。」
「それなら、この水晶玉を使うがよい。」
ソンタは、魔法の水晶玉を借りて、一番大臣と一番役所へ連絡しました。
「これから、王様が帰還します。午後には、スポーツ戦争をしますので、準備をお願いします。」
一番大臣と一番役所は、さあ大変。大急ぎで準備を開始しました。まずは、フムフム共和国とムフムフ王国へスポーツ戦争の宣戦布告です。なんとなんと、これは珍しくあっという間にお仕事完了したのでした。グフムフ王国のお役所としては、奇跡です。
さて、ケプロル博士の計算では、月食は4時間20分24秒で終わってしまいますので、それまでに帰らなければなりません。ケプロル第三法則と、魔女ヘクラの力を借り、意気揚々と地球に帰ったグフムフ三世は、さっそくスポーツ戦争に参加しました。
スポーツ戦争では、一番負けた人が、ひげをそられるということにしてありました。
ムフムフ王国のヘンペイラ大王は、鼻下から顎にかけて立派な髭が生えていますが、フムフム共和国のナンジャモン大統領は、ついこの間、自転車戦争で負けたために、グフムフ三世にそられたばかりで、やっと生えそろってきたばかりです。
まあ、それでもこの二人は普段から力自慢で通っていましたので、よもや、グフムフ三世に負けると思っていません。ひげをそられるのは、もうグフムフ三世で決まったようなものです。
ところが、グフムフ王立体育館に入った二人は、ギョッと一瞬にして青ざめました。受付の後ろに、六メートルも舞い跳ぶグフムフ三世の颯爽たる写真が貼ってあったのです。さらに、重たそうなバーベルを持ち上げている写真がその横に。(もちろん、月で撮ったことを二人は知りません)
それを見た二人は、何とか理由をつけて帰ろうとしました。ところが、そこにグフムフ三世が現れ、「やあ、お二人ともようこそ。わざわざ負けに来てくれたのですな。ワハハハ。」というものですから、引くに引けなくなってしまいました。
競技は二つ。グフムフ三世お得意の、高跳びと重量挙げです。
最初は、高跳びです。
「ええーい!」
ヘンペイラ大王は、気合とともに飛び上がりました。素晴らしい跳躍です。九十一センチメートルです。
続いてナンジャモン大統領が飛びました。九十一センチと二ミリメートルです。
「なんじゃ、まるで子供のお遊びだな。これなら楽勝だ。何しろわしは二メートルも跳べるのだから。えいやあーっ。」
記録は三十一センチメートルです。
「そんな馬鹿なっ。」
重量挙げでは、最初にナンジャモン大統領が挑戦しました。
「ほいやーっ。」
八十キログラムを挙げました。
ヘンペイラ大王は八十四キログラムを挙げました。
満を持して、我らがグフムフ三世の登場です。ソンタが盛大に拍手します。
「ええいやー。」
ちっとも挙げられません。おもりをどんどん少なくして、たった十キログラムを挙げて終わりました。
皆さんはなぜかわかっていますよね。月の重力は、地球の六分の一しかないのです。ですから、月では物の重さが六分の一の軽さになります。決して、グフムフ三世が力持ちになったわけではなかったのですね。魔女ヘクラは何もしていません。
そのうえ、地球の外でしばらく遊びほうけていたので、骨が弱くなり、筋肉も衰えていたのです。
したがって、ムフムフ王国ヘンペイラ大王と、フムフム共和国ナンジャモン大統領は、たっぷり時間をかけ、嬉しそうにグフムフ三世のひげをそり落としました。
グフムフ三世は、わけがわからず泣きべそをかきました。君が、グフムフ三世にあうことがあったら、わけを教えてあげてくださいね。
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